2011/04/26

専門バーカ

えっと,実は,うちの大学でも高校への出張講義なんかをやったりしているのですが.

そこで,とある同僚のイギリス文化の専門家さんの一文にこんなのがありました.

『イギリス人の一般家庭の食卓では,日本と同じくらいの頻度でカレーが登場することをご存じでしょうか.』

えっと,思わず,

「知らんがな」

と心の中で呟いたのであります.

まず,「日本と同じ」というフレーズから,ついついカレーという食べ物が日本で定着しているのと同じく,イギリスでも家庭料理として定着しているという前提で読めそうな文章ですが,残念ながら,これは事実ではないと思われます.

確かにイギリスでもカレーを食卓に出すことはありますが,Marks and Spencerに行こうが,Sainsburyに行こうが,カレーなんぞ出来合の缶詰くらいしかありません.

日本みたいに,ルーから「作ったぞ」という感慨を持って作るような料理では決してありません.

私もイギリスにいた頃には,安いというのと手間がかからないという2つのアドバンテージがあったので,時折,日本のカレーを作っていたことがあります.

それで,同居人の紛れもないイギリス人のブレットとスティーブといろいろ話し込んだのだけれど,イギリスではカレーをかように家庭料理として作るような風習はなくて,普通はtake awayの持ち帰りか,外食で食べるものだという話をしていたものです.

さらに.

ロンドンに行ったときなんかにもいろいろとイギリス人と喋ったりしたのだけれど,日本式のカレーなんかは「作りがいがあって,非常においしい」という専らの評判だったのです.

彼らも普通,家でカレーは作らないという話(出来合のものを買ってくるという感覚).

イギリス人の中でも,特に仲のいいグリン・ヒックスなんかもカレーが好きで,ヨークの街中のカレー屋さんに何回か一緒に行ったことがあるけれど,やっぱり,

「家では食べない」

という話をした記憶がある.

というわけで,ヨークシャーはイギリスの中に含まれないとでも言われない限りは,私の現地体験から発言するに,日本の家庭料理としてのカレーと,イギリスの家庭料理としてのカレーを同列にして語るのはかなり無謀なのではないかと思うのだけれど,まぁ,こういう,日本のイギリス研究の専門家さんたちの話によれば,カレーは家庭料理としてイギリスに定着しているものらしい.

単刀直入に申し上げると,彼らの言うことは現状を正しく記述していないと思うのだけれど,この手の,実際には現地に行ったことがない,ないしは旅行程度でちょっと行っただけという人たちが,イギリス文化ないしはアメリカ文化の専門家を称して日本で幅を利かせるということはよくあります(私の母校でもそういう知り合いはたくさんいる).

彼らの「研究」は,基本,日本で手に入る文献に基づいていろいろと構築されるので,そこではいろいろと考えさせられるものがあります.

実際,現地に行って,調査することができるような時代であっても,そういうことはしなくてもよいという価値観を強く持っているのが,彼らの「常識」で,私はそういったものに強い違和感を持っていたのだけれど,この手の,現地調査などいらぬという態度は,わりと文学研究や史学研究で主流を占める考え方のように思われる.

歴史学者なんかが,さもその時代に行ったことがあるかのように,自分は自分の研究領域を全て知り尽くしているのだと言わんばかりに宣う様が,「なんでやねん!お前,ホンマにそこに行ったんかえ?」って感じに見えますよねって,阪大の先輩と一緒に話をして盛り上がったことがあるのだけれど(ETさん,元気ですか?),文学研究者も似たようなもんですよね.

何人かは現地調査なんかをしていたりするのだけれど,私の知り合いの多くはそんなことしてないです.

むしろ,少なくとも,お前よりはイギリスのことを知っていると思う.

なんて感情を抱きながら,傍から眺めてしまう,自称「イギリス研究の専門家」さんたちはたくさんいます.

この手の考え方は,けっこう文学や史学に特有のものらしく,現在の勤務校の同僚さんたちは,オーストラリアやアフリカに実際にフィールドワークに行って,集めてきたデータなんかを基にして研究をしたりするのが基本です.

私はこういう研究態度の方が健全に見えるのだけれど,信用できるのかもわからない文献のみに基づいてあれこれと机上の空論を並び立てることにも,それなりに価値はあるのかなぁと思わないこともないです.

自分はそういう立場には与しないし,現実を正しく捉えきれていない理論など,経験科学としては存在価値がないとも思いますけれど.

こういうのも価値観の違いなんだろうか.

でも,現地のことをよく分かっている人間たちが,よく知らない自称専門家たちに偉そうにされるのはあんまりいい気がしないというのも事実であったりする.

そんなもんなのかね.

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